はじめに:見た目は整っていても、実装で崩れるUIの落とし穴
Webディレクターの方にとって、Figmaなどのデザインデータがしっかり整っていれば「これで大丈夫」と思えるかもしれません。ですが、私たち実装者の現場では、「完璧に見えるUIでも実装してみたら崩れた」ということが少なくありません。
なぜそんなことが起きるのか?
それは、実装は静的なデザインを動的な仕組みに変換する作業だからです。つまり、可変するテキスト量やデバイス幅、ユーザーの操作パターンなど、デザイン上は見えていない不確定要素に対処する必要があるということです。
たとえば――
- テキストが長くなっただけでボタンが折り返してしまう
- モバイルで表が画面外にはみ出してしまう
- タブのラベル数が増えて、レイアウトが破綻する
こうした事態を、私たちは日々“崩れ”として体験しています。
この記事では、そうした「崩れやすいUIパターン」をランキング形式で紹介しながら、設計段階で注意すべきポイントや、実装者からの“事前に伝えてもらえると助かること”をご紹介します。
崩れやすいUIパターンTOP5とその落とし穴
1位:カード型グリッドレイアウト
どこでもよく使われるUIですが、実は非常に崩れやすい構造の一つです。
理由は、テキスト量や画像サイズ、カード数の違いにより、高さや並びが不揃いになること。
よくある崩れの原因:
- カードごとにテキスト量が異なり、高さがバラバラに
align-items: stretch
等の指定がなく、余白が不統一に- PCとスマホで列数が変化すると、中央寄せや整列が乱れる
設計時に意識したいポイント:
- テキストが2行・3行になったケースを見ておく
- 高さ揃えの仕様(そろえる or 自由)を明示する
- スマホ時の並び(1列 or スクロール)も設計しておく
2位:テーブルレイアウト(特にスマホ対応)
見やすさ・整合性の面で重宝されるテーブルも、レスポンシブ設計では要注意パーツです。
よくある崩れの原因:
- 列数が多く、スマホでは内容が潰れて見切れてしまう
display: table
系のレイアウトが横スクロール非対応で破綻
設計時に意識したいポイント:
- 「この列は最小幅何pxまでOKか?」を決めておく
- 折り返す?スクロールにする?を明記しておく
- 可能であれば「スマホ用テーブルの代替案」も用意
3位:タブ切り替えUI
「機能が多くないから大丈夫」と油断されがちですが、ラベルや数の変化で崩れやすい典型例です。
よくある崩れの原因:
- ラベルが長くなると、タブ同士が被る or 折り返す
- タブが2個 → 5個などに増えたときのレイアウトが未想定
- アクティブ時の装飾がデフォルトと差がなさすぎる
設計時に意識したいポイント:
- 「最長ラベルは●文字くらい」と想定してデザイン
- 2個〜5個程度のパターンでレイアウトを確認
- アクティブ状態の見分けやすさも重要
第4位:ボタン横並び(例:キャンセル/送信)
よくある崩れの原因:
- ラベルの文字数が異なることでボタンサイズが揃わない
- 画面幅が狭くなると、ボタンが折り返される/片方が2行になる
- レイアウトが「中央揃え」「右寄せ」などでズレることも
一見シンプルなUIですが、「ラベルの長さ」と「レスポンシブ対応」によって、地味に崩れやすいポイントです。
設計時に意識したいポイント:
- 「ボタン幅は固定? コンテンツサイズ?」の方針を決めておく
- モバイル時は縦並び切り替えも想定する
- 配置(左寄せ/中央/右寄せ)も指定しておくとスムーズ
第5位:モーダル・ダイアログ
よくある崩れの原因:
- 長文対応が不十分:コンテンツが長くなると、モーダル内で収まりきらず、はみ出してしまうことがあります。
- スクロール不可:モーダル内でスクロールができない設計の場合、全ての内容を表示できず、ユーザーが情報を見逃す可能性があります。
- 画面サイズオーバー:特にスマートフォンなどの小さな画面では、モーダルが画面サイズを超えてしまい、操作が困難になることがあります。
設計時に意識したいポイント:
- 最大サイズの設定:モーダルの最大幅や最大高さを設定し、画面サイズに応じて適切にリサイズされるようにします。
- スクロールの許可:モーダル内でコンテンツが収まりきらない場合、内部スクロールを可能にして、全ての情報にアクセスできるようにします。
- レスポンシブデザイン:デバイスの画面サイズに応じて、モーダルのレイアウトやサイズが適切に調整されるように設計します。
このコードでは、モーダルが画面サイズに応じて適切に表示され、内容が多い場合でもスクロール可能です。また、背景をクリックすることでモーダルを閉じることができます。
第3章:なぜ崩れる? 実装者が感じている“盲点”
デザインデータが整っていても、実際の実装段階でUIが崩れるケースは少なくありません。その原因の多くは、デザインが「静的な状態」しか考慮しておらず、実際の使用状況や動的な要素が想定されていないことにあります。
実装者が直面する課題
- データの可変性: 実際のコンテンツは、デザイン時に想定された文字数や画像サイズと異なる場合があります。
- デバイスの多様性: スマートフォンやタブレットなど、さまざまな画面サイズでの表示が求められます。
- ユーザーの操作: ユーザーの予期しない操作や入力により、UIが崩れる可能性があります。
これらの要素を考慮せずにデザインを進めると、実装段階での手戻りや修正が増え、プロジェクト全体の効率が低下します。
第4章:ディレクターが意識しておくと良い3つの視点
UIの崩れを防ぐためには、ディレクターが設計段階で以下の視点を持つことが重要です。
1. 要素の変動を想定する
「この要素は増減する可能性があるか?」「ユーザーの操作によって状態が変わるか?」といった問いを持ち、動的な変化を設計に反映させることが求められます。
2. 複数パターンでの検証

文字数の多い場合や少ない場合、異なるデバイスでの表示など、さまざまなシナリオでレイアウトを確認し、柔軟な設計を心がけましょう。
3. 最悪のケースを共有する
「最も崩れやすい状況ではどのように表示されるべきか?」といった最悪のケースを想定し、その対応策を実装者と共有することで、予期せぬトラブルを未然に防ぐことができます。
第5章:まとめ ─ 崩れやすいUIこそ、設計の丁寧さが求められる
UIの崩れは、ユーザー体験を損なうだけでなく、ブランドイメージや信頼性にも影響を与えます。特に、よく使われるUIパターンほど、細部までの設計が求められます。

ディレクターが「崩れやすいUI」の特徴を理解し、設計段階での配慮を行うことで、実装者との連携がスムーズになり、品質の高い成果物を提供することが可能となります。
今回で、「Webディレクター必携 ─ 現場経験から導いた“フロント制作 完全ガイド”」シリーズは一旦終了です。
これまで全8回にわたって、実装現場の視点からWebディレクターの皆さまに向けて「設計と実装の間にあるギャップ」や「よりスムーズな制作進行のための工夫」をお伝えしてきました。
どれも日々の現場で実際に感じている課題や工夫ばかりです。もし少しでも、「実装者がなぜそれにこだわるのか」が伝わっていたら嬉しく思います。
今後も、ディレクターと実装者がより良い形で連携できるよう、現場からの視点を発信していければと思います。
ご覧いただき、ありがとうございました!