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「Webディレクター必携 ─ 現場経験から導いた“フロント制作 完全ガイド”」 Vol.2 レスポンシブ対応の落とし穴 ─ ブレイクポイントだけじゃ防げないUI崩れ

1. はじめに:「レスポンシブ対応済み」と言っても…

フロントエンドのコーディング代行をしていると、デザイン確認の際によくこんなやりとりがあります。

「PCとスマホのデザインはそれぞれ作ってあるので、あとは切り替えだけお願いします」
「このデザインでレスポンシブ対応、問題ないですよね?」

こうした言葉をいただいたとき、実装者として私が最初に確認するのは、“その間のサイズがどうなっているか”です。
なぜなら、「PCとスマホの2画面だけでは不十分なケース」が非常に多いからです。

表示が“切り替わる”だけでなく、“崩れない”ことが重要

確かに、Figmaで2つのデザインが用意されていれば、ブレイクポイントを使って切り替える実装は可能です。
ただし現実には、その“間のサイズ”──たとえばタブレット、小型ノートPC、あるいはズームされたスマホ画面など──で意図しないレイアウト崩れが発生することがよくあります

さらに、デザインには存在しないけれど、実データを流し込むことで起こる破綻(長文タイトル、ボタン文言の改行など)も避けては通れません。

実装者は「表示が切り替わる」よりも、「崩れない」ことに神経を使っている

レスポンシブ対応とは、単に画面サイズで表示を切り替える仕組みではなく、
どんな画面幅・どんなデータでもUIが破綻しないように保つ“柔軟性の設計”が本質です。

本記事では、コーディング実務の中で実際に遭遇した“レスポンシブ対応の落とし穴”と、
それに対してどのような工夫や判断が求められているのかを、Webディレクターの皆さんに共有したいと思います。

2. レスポンシブは“2つのサイズ”だけでは足りない理由

実装の現場で最もよくあるのが、「PCとスマホ、それぞれのデザインを渡されたから問題ないだろう」というケースです。
しかし、コーディングの段階でUIの破綻を防ごうとすると、その“間”のサイズ感=中間画面幅での設計が重要になります

タブレット・小型PCは“未対応ゾーン”になりやすい

たとえばiPadやSurface、11インチのノートPCなどは、PCほど横幅がなく、スマホほど縦長でもない中間サイズです。
この領域は、Figma上で意識されていないことも多く、「どっちつかず」の見た目になってしまうリスクが高いです。

特に横並びのパーツやグリッド系レイアウトは、スマホ向けの縦積みにもPC向けの横展開にも収まりきらず、レイアウトが崩れやすくなります。

実データが入ると一気に破綻する

デザイン段階では仮テキストや短いコピーが使われていても、実装時には本番のタイトル・商品名・説明文が入ります。
そうなると、たとえば以下のようなことがよく起きます。

  • ボタン内のテキストが長くて2行になり、横並びが崩れる
  • タイトルが折り返して見た目が詰まる
  • カードグリッドで高さが揃わずガタつく

Figmaでは綺麗に見えていたものが、実データで一気に破綻する──これは実装者として日々直面している現実です。

想定外の閲覧環境:Webビュー、翻訳、ズーム

もう一つ見落とされがちなのが、“Web以外の見られ方”です。

  • アプリ内のWebビューで表示されたとき、余白が切れる
  • 英語や中国語などに翻訳された際、文字が長くなりUIが崩れる
  • 高齢者ユーザーがブラウザのズーム機能で拡大表示したとき、レイアウトが突き抜ける

これらはすべて、実装者が「起こり得るリスク」として日頃から警戒しているポイントです。
ブレイクポイントだけでは吸収できない“中身の変動”に備える必要があるのです。

それでは、こうしたリスクを踏まえ、私たち実装者が実際に「ここは崩れやすい」と感じるUIパターンと、その問題点について具体的に紹介していきます。

3. 実装者目線での“崩れやすいポイント”とは?

レスポンシブ設計では、「見た目上キレイに並んでいるように見えるパーツ」ほど、実装時に崩れやすい落とし穴が潜んでいます。
以下は、私がこれまでの案件で繰り返し直面してきた、破綻リスクの高いUI構成の代表例です。

カードグリッド

よくある崩れ方:高さがバラバラに揃わない/余白が崩れる

カード型レイアウトは一見シンプルですが、タイトルの長さや画像の比率が揃っていないと高さが崩れ、整って見えなくなります
「デザインでは3列でキレイに揃っていたのに、実データを入れたらガタガタになった」というのは非常によくあるパターンです。

タブ切り替え

よくある崩れ方:ラベル数や文字数で折り返し/はみ出しが発生

タブUIはラベルの数が増えると、横幅が足りずにテキストが折り返されたり、タブ自体が下に落ちてしまったりすることがあります。
特にスマホ表示で「4タブ以上」ある場合や、ラベルが翻訳で長くなった場合に破綻しやすいです。

テーブルレイアウト

よくある崩れ方:スマホ幅で列が潰れて読めない/横スクロールが必要になる

PCでは問題なくても、スマホでは表が画面幅に収まらず、列が押しつぶされて可読性が下がることが頻繁に起こります。
スクロール対応や折り返し処理が必要になりますが、それも表の構成次第では難しい場合があります。

ボタン横並び

よくある崩れ方:ラベルの文字量で左右のバランスが崩れる

「戻る/次へ」「キャンセル/保存」などの横並びのボタンは、ラベルの文字量によって片方が2行になってしまうことがよくあります。
たった数文字でレイアウトが大きく崩れるため、非常に繊細な調整が求められるパーツです。

こうした崩れやすいパーツは、デザインの段階で気づきにくく、「あとはそのままコーディングすれば大丈夫」と思われがちです。
ですが実装者側では、1px単位でバランスを調整しながら、“崩れない幅”と“柔軟な可変性”を両立させる工夫を日々行っています。

4. ブレイクポイントだけではない“実装調整”の実際

「ブレイクポイントで切り替えてあるから大丈夫」──そう思われることもありますが、実装の現場では、それだけでは足りないことの方が多いのが現実です。

むしろ、UIの崩れやすさは画面幅ではなく、コンテンツの中身や構成によって起こることが多く、柔軟な調整力が求められます。

コンポーネント単位で“中身に応じた柔軟設計”が基本

私が実装する際は、各UIパーツを「この中にどんな内容が入っても破綻しないか?」という視点で見ています。たとえば:

  • テキストが長くても折り返してレイアウトが崩れない
  • 画面幅が狭くなっても要素同士が重ならない
  • 意図しない余白や行間が発生しないように内側の余白も調整

こうした条件を満たすために、min-widthflex-wrapoverflow などの細かなCSS調整をパーツごとに追加しています。

「幅の切り替え」ではなく「構成の耐性」が重要

たとえば、カード型のグリッドでは、単に2列→1列にするだけではなく、高さのばらつきに備えてgrid-auto-rowsalign-items: stretchを併用することで、見た目の整合性を維持します。

また、タブが多くなったときの対応として、横スクロールに切り替える/ボタン形式に落とし込むなど、表示方法自体を柔軟に切り替える工夫も必要です。

柔軟性のある実装=“崩れにくいUI”の鍵

私が一番意識しているのは、「固定値をなるべく使わない」「可変データでも壊れない作りにする」ことです。

たとえば、ボタンの幅を明示的に揃えるのではなく、paddingtext-alignで自然に整える。テーブルでは、列幅にmin-widthを持たせつつ、overflow: autoで横スクロールに逃がす
こういった調整を積み重ねることで、見た目が保たれ、操作にもストレスがないUIが完成します。

ディレクターの方がこれらの背景を少しでも知っておくと、実装時に「ここは柔軟に作る前提で考えてもらえますか?」と一言添えるだけで、後工程の工数が大きく変わってきます。

5. ディレクターが押さえておくと役立つ3つの視点

レスポンシブ対応の現場では、「見た目を切り替える」以上に、“崩れない仕組みを作る”という視点が非常に重要です。
そこで、実装経験を通じて感じた「ここを意識してもらえると助かる!」というディレクションのポイントを3つにまとめました。

1. 2サイズだけのデザインでは“動的な破綻”が見えない

PCとスマホの2パターンがあっても、その“間”で起こる崩れまでは見えてきません。
特に、小さいノートPCやタブレットはFigmaでは抜けがちなゾーンです。

👉 実装時の崩れを未然に防ぐには、「中間サイズの確認」も意識してもらえると非常に助かります。

2. レビュー時は「文字を増やして崩してみる」視点が有効

仮テキストや短い見出しはデザイン上きれいに見えますが、本番データが入った途端に崩れるケースが本当に多いです。

👉 レビュー段階で、意図的に長めの文言を入れてみる/翻訳後の表示を想定するなど、“崩すテスト”をしてもらえると、破綻しやすい箇所が早期に見つけられます。

3. 「ここは可変対応で」と一言あるだけで実装が変わる

レイアウトが柔軟に変化してもよい部分(例:タブ数、カード数、テキスト長など)は、
設計段階やFigma上に「この部分は動的に変わる想定」とコメントを入れていただけると、実装側でも崩れを想定して組むことができます。

👉 この一言があるかないかで、後からの修正工数が大きく変わるのが実情です。

ディレクターがこれらの視点を持ってくださるだけで、
「見た目は整っていたけど、実装後に崩れるUI」を減らすことができ、プロジェクト全体の品質がぐっと上がります。

6. まとめ:「レスポンシブ対応」は“広い画面対応力”のこと

レスポンシブ対応とは、PCとスマホに対応していれば十分──ではありません。
実装の現場では、「その間」の画面幅や、「想定外のデータ」「動的な変化」などにも対応できる柔軟なUI設計が求められています。

デザインには現れない“破綻ポイント”をどう防ぐか

  • タブレットや小型PCでの中間幅
  • 翻訳や長文によるUI崩れ
  • ボタン・タブ・テーブルなどの可変要素

こうした部分は、静的なデザインだけでは見えてこない破綻リスクです。
それを防ぐには、設計・レビュー・実装の段階で「崩れにくさ」を前提に考えることが必要です。

少しの意識が、大きな品質向上につながる

ディレクターが「中間サイズもチェックしよう」「ここは動的に変わるかも」といった視点を持ってくださるだけで、
実装の手戻りが減り、結果としてより使いやすく壊れにくいUIが完成します

Vol.2は以上です。
次回は「“ちょっと修正”が簡単じゃない理由」について、実装者の視点から掘り下げてお届けします。

Vol.3も、お楽しみに!