AI駆動開発
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AI時代のコーディング見積もり ─ 工数の考え方はどう変わるか

株式会社ファストコーディングでフロントエンド開発と技術戦略を担当している黒田です。

最近、見積もりの説明が以前より難しくなったなと感じています。

以前は「このページのコーディングは○人日です」と出せば、クライアントも納得してくれることが多かった。ところがAIの普及で、「AIを使えばもっと安くなるのでは?」という前提が入るようになりました。

この質問自体は理解できます。AIがコードを書けるなら、人間が書く時間は減るはず。減った分は安くなるはず。ロジックとしては正しい。ただ、実際の見積もりはそう単純にはいきません。

今回は、コーディング代行の見積もりがAI導入でどう変わったか、うちの実例をもとにお話しします。

AI導入前の見積もり構成

まず、従来の見積もりがどういう構成だったかを振り返ります。

コーポレートサイト(10ページ程度、レスポンシブ対応)の標準的な見積もりです。

工程割合内容
実装(HTML/CSS/JS)55%デザインカンプからのコーディング
テスト・検証20%クロスブラウザ、レスポンシブ、表示確認
修正対応15%クライアント確認後の修正
ディレクション・管理10%進行管理、仕様確認、納品対応

見積もりの半分以上が「実装」でした。クライアントから見ても「コーディングにお金を払っている」という感覚がわかりやすい構成です。

AI導入後の見積もり構成

AI導入後、同じ規模の案件で見積もりの内訳がこう変わりました。以下はコーポレートサイト新規制作(10ページ程度、レスポンシブ対応)を対象に、うちの過去1年間の案件実績から算出した傾向値です。案件の複雑さやクライアントの要件によって個別にはブレがあります。

工程AI導入前AI導入後変化
実装(HTML/CSS/JS)55%25%-30%
AI指示・仕様設計0%15%+15%(新規)
レビュー・品質検証20%30%+10%
修正対応15%20%+5%
ディレクション・管理10%10%変化なし

実装工程は55%から25%に減りました。一方で「AI指示・仕様設計」という新しい工程が15%追加され、レビュー・品質検証が10%増えています。

トータルの金額は以前と比べて約30%程度下がっています。ただし、「実装が半分になったなら金額も半分になるはず」という期待に対しては、ギャップがあります。

なぜ「実装が減った分」がそのまま安くならないのか

クライアントに説明するときに使っている図があります。

AI導入前の工数イメージ:

[========== 実装 ==========][==== テスト ====][== 修正 ==][= 管理 =]

AI導入後の工数イメージ:

[== 実装 ==][=== AI指示 ===][====== レビュー ======][=== 修正 ===][= 管理 =]

実装のバーは確かに短くなっています。しかし、その前に「AI指示」が追加され、後ろの「レビュー」と「修正」が伸びている。全体のバーの長さは以前より短いですが、半分にはなっていません。

この「なぜ短くならないか」を分解すると、3つの理由があります。

理由1:AI向けの指示書にコストがかかる

AIに適切なコードを出させるには、事前の準備が必要です。

  • ブレイクポイントの指定
  • 既存CSSの命名規則の整理
  • アクセシビリティ要件の明記
  • セクション単位の分割と指示の構造化

以前は「コーダーの頭の中」にあった暗黙知を、AIが理解できる形で言語化する作業です。経験のあるコーダーほど「言わなくてもわかる」ことが多いのですが、AIには全部言わないとわからない。この言語化コストは無視できません。

理由2:AIの出力を検証するコストが増えた

人間のコーダーが書いたコードは、書いた本人がある程度の品質を担保しています。バグがあっても「なぜそう書いたか」の意図が追える。

一方、AIの出力は「意図」がありません。正しいコードと間違ったコードが混在していて、どこが正しくてどこが間違っているかを人間が全行チェックする必要がある。

うちの実感では、AI出力のレビューは人間が書いたコードのレビューの約1.5倍の時間がかかります。

理由3:AI起因の修正が発生する

AIが出したコードに起因する修正は、原因特定が難しいことがあります。人間が書いたコードなら「この人のこの判断が間違っていた」と追えますが、AIの場合は「なぜこう書いたか」がわからないため、修正方針を決めるのに時間がかかる。

特に、複数セクションをAIに別々に生成させた場合、セクション間のCSS干渉が起きやすい。これはセクション単位でしかコンテキストを持てないAIの構造的な問題です。

クライアントへの説明で工夫していること

見積もりの説明で、うちが心がけていることを3つ紹介します。

工夫1:「何にお金がかかっているか」を可視化する

以前は「コーディング一式 ○○円」と出していた見積もりを、工程別に分解して提示するようにしました。

コーディング見積もり(10ページ)

- 仕様整理・AI指示設計    ○○円
- AI活用コーディング      ○○円
- 品質検証・ブラウザテスト  ○○円
- 修正対応(2回まで)      ○○円
- ディレクション           ○○円
---
合計                       ○○円

この分解をすると、「AIで安くなった分はどこか」「逆に増えた分はどこか」が見えます。「実装は安くなりましたが、品質検証をしっかりやるための費用がここにかかっています」と説明できる。

工夫2:「安さ」ではなく「品質保証」を売る

「AIを使って安くしました」を売りにすると、「もっとAIを使えばもっと安くなるはず」という値下げ圧力が永遠に続きます。

うちではAI活用はあくまで「社内の効率化手段」として位置づけ、クライアントへの提供価値は「品質保証」に置いています。

「AIで初期実装を高速化した分、品質検証により多くの時間を投資しています。結果として、クロスブラウザ対応やアクセシビリティの品質が以前より上がっています」

この説明の方が、長期的な信頼関係の構築につながると考えています。

工夫3:比較見積もりを出す

案件によっては「AI活用あり」と「AI活用なし」の2パターンで見積もりを出すことがあります。以下はコーポレートサイト10ページの新規制作案件を想定した、うちの標準的な見積もりの一例です。

項目AI活用なしAI活用あり
実装工数21人日8人日
AI指示・仕様設計0人日3人日
レビュー・品質検証4人日5人日
修正対応3人日3人日
ディレクション2人日2人日
合計30人日21人日

こうすると、「AI活用で9人日分(約30%)効率化されている。ただし半分にはならない」ことが数字で伝わります。

まとめ

AI時代のコーディング見積もりについて、うちの実情をお話ししました。

見積もりで起きている変化を整理すると、以下の通りです。

実装工数は確かに減っています。AIの活用で、HTML/CSSの初期コーディングにかかる時間は大幅に短縮されました。

しかし、新たに発生する工数があります。AI向けの仕様設計、AI出力のレビュー、AI起因の修正対応です。これらを差し引くと、トータルの削減幅は約30%程度に収まります。

見積もりの構造自体が変わっています。以前は「実装中心」だった見積もりが、「品質保証中心」に移行しつつある。この変化はクライアントにとっても、最終的にはメリットになるはずです。品質検証に十分な工数を確保することで、納品後の不具合や手戻りが減るからです。

「AIで安くなるのでは?」という質問には、「はい、安くなります」とまずお答えしています。実際に約30%下がっている。ただし、その次に必ず伝えるのは、「コスト削減だけを追うと品質がおざなりになります」ということです。

AIが書いたコードは、人間がレビューしなければ品質が担保されません。レビューを省略してさらに安くすることは技術的には可能ですが、その結果、納品後に表示崩れやアクセシビリティの問題が出て、修正対応でかえってコストが膨らむ。うちでも導入初期にそれを経験しました。

安くなった分を「さらなる値下げ」に使うのか、「品質の向上」に使うのか。うちは後者を選んでいます。安さの競争ではなく、品質の競争にフェーズが移っている。うちとしてはそちらの方が正しい方向だと考えています。

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