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“簡単だからすぐできますよね?”にプロはどう答えるべきか

簡単だからすぐできますよね?にプロはどう答えるべきか

株式会社ファストコーディングで営業を担当しています長谷川と申します。お客様とお話ししていて気づいたことや、フロントエンド開発・コーディング制作界隈で最近流行っていることを書いていこうと思っております。どうぞ宜しくお願いします。

今回のテーマは、お客様から何百回と聞かれてきたあの一言です。

「これ、簡単ですよね? すぐできますよね?」

営業をやっていると、この質問を受けない週はありません。悪気があって言っているわけではないんです。お客様からすれば素朴な疑問なんですよね。でも、この一言にどう答えるかで、プロジェクトの行方が大きく変わります。今回は営業の立場から、この質問の裏にある構造と、相手を傷つけずに正しく伝える方法をお話しします。

「見た目が簡単」と「作るのが簡単」は別物

まず、お客様がなぜ「簡単そう」と感じるのかを理解する必要があります。

あるお客様から、こんな相談をいただきました。

「トップページのボタンの色を変えたいだけなんですけど、30分くらいでできますよね?」

ボタンの色を変えること自体は、確かにCSSの1行を書き換えるだけかもしれません。でも実際にはこういう作業が発生します。

  • どのページに同じボタンがあるか、全ページを確認する
  • 色を変えた結果、背景との視認性が保たれるかチェックする
  • スマートフォンやタブレットでの見え方を確認する
  • ステージング環境でテストして、他の要素に影響が出ていないか確認する
  • 本番環境にデプロイして、キャッシュの問題がないか確認する

お客様が見ているのは「ボタンの色が変わる」という結果だけなんです。その裏側にある確認作業や品質保証の工程は、見えていないんですよね。これは当たり前のことで、お客様を責めるべきではありません。見えないものを想像するのは難しいですから。

営業として何百回も経験した”工数の誤解”

私がこれまで何百回と経験してきた「簡単でしょ?」の実例をいくつかご紹介します。

ケース1:「テキストを差し替えるだけ」

あるコーポレートサイトのお客様から「会社概要の住所を変更したい」と依頼がありました。お客様は「テキストの書き換えだけだから5分でしょ」とおっしゃいます。

実際に確認したところ、住所はサイト内の7箇所に記載されていました。会社概要ページ、フッター、お問い合わせページ、採用ページ、プライバシーポリシー、特商法に基づく表記、それからGoogleマップの埋め込み。さらに構造化データ(schema.org)にも住所情報が入っていたんです。

全部直さないと、Googleの検索結果に古い住所が出続ける可能性があります。お客様にそうお伝えしたら「そんなにあるんですか」と驚かれました。

ケース2:「画像を1枚入れ替えるだけ」

ECサイトを運営されているお客様から「メインビジュアルの画像を差し替えてほしい」と言われました。「画像1枚の差し替えなんだから、すぐできますよね?」と。

ところが、メインビジュアルはPC用・タブレット用・スマートフォン用で3サイズ用意されていました。さらにWebP形式とJPEG形式の両方が必要です。3サイズ × 2形式で、1枚の「画像差し替え」のために6ファイルの書き出しが発生しました。HTML内のsrcset属性やpicture要素の確認も必要です。

ケース3:「フォームに項目を1つ追加するだけ」

これは特に多い依頼です。お問い合わせフォームに「部署名」の入力欄を追加したいというご相談。

HTMLに入力欄を1つ追加するだけなら確かに簡単です。でも実際には、バリデーション(入力チェック)の設定、確認画面への反映、送信メールのテンプレート修正、管理画面のデータ表示対応、そしてスパム対策との整合性チェックが必要になります。さらにお客様のCRMと連携している場合、受け取り側のフィールド追加も必要です。

「長谷川さん、フォームに1個追加するだけなのに、なんでそんなにかかるんですか?」

お気持ちはよくわかります。でも「フォームに1個追加する」と「フォームの仕組み全体に1個追加する」は、まったく別の作業なんですよね。

工数の”見えない部分”を伝える

では、こういった誤解をどうやって解消するか。私が営業として日々使っている考え方をご紹介します。

Web制作の工数は、大きく3つの層に分かれます。

内容お客様から見えるか
実装コードを書く、画像を差し替える△(結果だけ見える)
検証複数端末・ブラウザでの確認、既存機能への影響調査×(見えない)
品質保証テスト環境での確認、本番デプロイ、動作確認×(見えない)

お客様が「簡単でしょ?」とおっしゃるとき、見えているのは一番上の「実装」だけなんです。でも実際には、その下に「検証」と「品質保証」という見えない層がある。私はお客様にこの3層の話をよくするのですが、だいたい「なるほど、そういうことか」と理解していただけます。

ある案件でこの3層の図をお見せしたところ、お客様から「今までの制作会社は、なぜこんなにかかるのか説明してくれなかった。だから不信感があったんです」と言われたことがあります。見えないものを見えるようにするだけで、信頼関係が変わるんですよね。

相手を傷つけない伝え方

ここが一番大事なところです。「それ、簡単じゃないですよ」とストレートに言ったら、お客様は萎縮してしまいます。次から質問しにくくなりますし、最悪の場合「融通が利かない会社だ」と思われてしまう。

私が心がけている伝え方のポイントは3つあります。

1. まず共感する

「確かに、画面で見ると小さな変更に見えますよね」と、お客様の感覚を否定しないところから始めます。お客様は間違ったことを言っているわけではないんです。見えている範囲では正しい判断をしている。まずそれを認めることが大事です。

2. 裏側を「翻訳」して見せる

「実はこの変更を安全に行うために、こういう確認作業が必要でして」と、技術的な話を日常語に翻訳します。「デグレーション確認」ではなく「他のページが壊れていないかの確認」。「レスポンシブ検証」ではなく「スマートフォンやタブレットでの見え方チェック」。お客様は技術者ではないので、専門用語を使わないのは基本中の基本です。

3. 選択肢を提示する

「最短でやるならこのやり方、安全にやるならこのやり方があります。おすすめはこちらです」と、選択肢を示します。お客様が自分で判断できるようにすることが重要です。「できません」ではなく「こうすればできます」。この言い換えだけで、お客様の反応がまったく違ってきます。

「長谷川さんの説明を聞いて、制作の裏側が初めてわかりました。今までは見積もりの金額だけ見て高いと思っていたけど、これだけのことをやってくれているなら納得です」

あるお客様にこう言っていただけたとき、この伝え方で良かったなと実感しました。

ディレクター・PMが使える”工数説明テンプレート”

ここまでの話を踏まえて、お客様に工数を説明するときに使えるテンプレートをご紹介します。私が実際に使っているものをベースにしています。

お客様から「これ、簡単にできますよね?」と聞かれたときの対応フローです。

  1. 共感する:「画面で見るとシンプルな変更に見えますよね」
  2. 範囲を確認する:「念のため確認させてください。この変更は○○ページだけで大丈夫ですか?」
  3. 裏側を説明する:「実は安全にお届けするために、○○と○○の確認が必要でして」
  4. 見積もりの根拠を示す:「実装が○時間、確認作業が○時間、合計で○時間ほどいただいています」
  5. 選択肢を提示する:「急ぎの場合は確認範囲を絞る方法もありますが、おすすめは──」

このフローで説明すると、だいたいのお客様は「わかりました、お任せします」と納得してくださいます。ポイントは「なぜその工数がかかるのか」の理由を、お客様の言葉で説明することです。

「簡単でしょ?」は信頼構築のチャンス

最後に、ひとつだけお伝えしたいことがあります。

「簡単だからすぐできますよね?」という質問は、実は信頼構築の大きなチャンスなんです。お客様がそう聞いてくるということは、まだ制作の裏側を知らないということ。ここで丁寧に説明すれば、「この会社はちゃんと説明してくれる」という信頼につながります。

逆に「はい、すぐできますよ」と安請け合いして、あとからスケジュールや品質の問題が出たほうがよほど信頼を損ないます。最初にきちんと説明する手間を惜しまないことが、長い付き合いにつながるんですよね。

まずはご相談ください

今回は営業の立場から、「簡単だからすぐできますよね?」にどう答えるべきかをお話ししました。

お伝えしたかったのは、以下の3点です。

  • 「見た目が簡単」と「作るのが簡単」は別物。工数の大半は検証と品質保証にある
  • お客様の感覚を否定せず、裏側を「翻訳」して見せることで理解が得られる
  • 「できません」ではなく「こうすればできます」と選択肢を示す

これらを意識するだけで、お客様との工数に関するやりとりがスムーズになります。実際に私の担当するお客様では、こうした丁寧な説明を重ねた結果、見積もりに対する質問が減り、確認のレスポンスも早くなりました。信頼が工数を最適化するということを、日々実感しています。

先日、ゴルフ仲間に「なんで制作の見積もりってあんなに高いの?」と聞かれて、この話をしたら「うちの業界も同じだよ」と笑っていました。どの業界でも、プロの仕事の裏側は見えにくいものなんですよね。

株式会社ファストコーディングでは、こうした工数の説明も含めて、お客様にわかりやすいコミュニケーションを大切にしています。「制作会社の見積もりがよくわからない」「工数の妥当性を確認したい」という方は、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。