1. はじめに:JSなしでもできる時代になっています
「動きのあるUIはJavaScriptで組むもの」──かつてはそれが当たり前でした。
私自身、過去の案件では、ホバーアニメーションやアコーディオンメニューなど、動きが必要な場面ではすぐにJSを使う前提で考えていました。
しかし、最近のCSSは想像以上に進化しています。
アニメーション、UIの切り替え、インタラクション表現まで、JavaScriptを使わずCSSだけで完結できるケースが確実に増えているのが現実です。
それでも、ディレクションの現場では「とりあえずJSでお願い」と依頼されることが少なくありません。
その背景には、「CSSだけでどこまでできるのか?」がまだ広く知られていない、というギャップがあると感じています。
本記事では、私が実際の案件でCSSだけで構築したUI表現や、JS不要で済んだ事例を紹介しながら、
“どんな場面でCSSが有効か”をWebディレクター視点でご紹介していきます。
それでは、CSSだけで実装できるUI表現の実例を具体的に紹介させていただきます!
2. 実例紹介:CSSだけで実装した表現たち
ここでは、私が実装現場で実際に使ってきた、JavaScriptを使わずCSSだけで実現できる動的UIを厳選して紹介します。
軽量で、保守性にも優れ、表現力も高いため、「JSありき」で考える前に知っておいて損はありません。
✅ ホバーで画像がズーム・反転・フェード
案件例:サービス紹介ページのカードに、マウスホバーでズーム+フェード効果を追加
ポイント:transform
と opacity
の組み合わせは、視覚的なインパクトが大きく、CSSだけで十分。
これにJSを使うと、逆に冗長でパフォーマンスも落ちます。
✅ アコーディオンUI:<details>
タグ
案件例:FAQページのQ&Aを、JSなしで開閉式に
ポイント:<details>
タグは、標準で開閉動作がついており、アクセシビリティにも配慮されている優れたUIパーツです。
軽量・安定・拡張性ありで、最近は採用機会が増えています。
✅ セクション切り替え:scroll-snap
案件例:ランディングページ内のフルセクションスクロール切り替え
ポイント:セクション単位で自然なスライド切り替えができ、JSスライダーの代替として非常に有効です。
スマホでも操作しやすく、意外と知られていないおすすめ機能です。
✅ 表示・非表示の切り替え::checked
擬似クラス
案件例:ラジオボタンでタブ切り替えを実装
ポイント:フォーム要素+:checked
で、状態に応じて表示を切り替えるUIがCSSだけで作れます。
モーダル・タブ・スイッチなど、小規模なUIでとても有効です。
✅ 繰り返しアニメーション:@keyframes
案件例:ファーストビューのバナーアニメーション(フェードイン+ループ)
ポイント:JSのsetInterval
で管理するよりも、CSSアニメーションの方が軽量かつ安定します。
装飾的な動きにはCSSが最適です。
これらのように、「動くからJS」ではなく、「動くけどCSSでいい」ケースは確実に増えています。
では、なぜCSSだけで実装することが“合理的”なのか、私がそう思う根拠を実装者目線で解説します。
3. なぜCSSだけでやるべきなのか?(メリット解説)
CSSだけで実装できるUIがここまであるなら、「それを選ぶ理由は何か?」という視点も大切です。
実装者として日々感じているのは、CSSベースのUIには“軽さ”と“安定性”という確かな利点があるということです。
実装コストが圧倒的に軽い
JavaScriptで動きをつける場合、イベントの検知・状態の管理・DOM操作など、どうしても記述が複雑になります。
一方CSSは、少ないコード量で目的の表現にたどり着けるため、バグの混入も抑えられます。
とくにホバーアニメーションや開閉メニューなど、“きっかけに応じて何かが変わる”系のUIはCSSで完結することが多いです。
表示速度に貢献する
CSSで書かれた動きは、ブラウザの描画エンジンに最適化されているため、表示が早く、スクロールや読み込みの邪魔をしません。
一方で、JavaScriptはDOMが完全に構築された後に動作を開始するため、場合によってはページ読み込みの遅延要因になることも。
特に、スマホ向けのパフォーマンス改善を求められる場面では、CSSベースのUIは非常に効果的です。
保守しやすく、ライブラリにも依存しない
CSSだけで完結するUIは、外部ライブラリに頼らない分、更新時の影響範囲が小さくなります。
また、デザイナーとも共有しやすいため、「どこでどんな動きが起きるのか」がチーム全体で把握しやすいという利点もあります。
トラブルの原因を減らせる
JavaScriptの競合、非同期処理のタイミングズレ、スクロールイベントとのバッティング…。
こうした“JSならではのバグ”に悩まされた経験があるディレクターもいるかもしれません。
CSSだけで完結できる場面では、こうしたリスク自体が発生しないため、テストや調整にかかるコストも減らすことができます。
もちろん、すべてのUIをCSSでまかなえるわけではありません。
そこで次は、CSSだけでは対応が難しいケースについて見ていきましょう。
4. とはいえ「CSSでは難しい」パターンもある
CSSだけで表現できることが増えたとはいえ、すべてをカバーできるわけではありません。
実装者としては、「どこまでCSSでやって、どこからJSに任せるか」の見極めが非常に重要だと感じています。
状態の管理が必要なUI
たとえば、ログイン状態によって表示内容を切り替えるようなUIや、複数の状態が連動するトグル・ナビゲーションなどは、CSSでは対応しきれません。
チェックボックスやラジオボタンを使って簡易的な状態制御は可能ですが、状態が2つ以上にまたがると一気に複雑化します。
非同期データが関与するUI
APIから取得した情報を元に、画面の内容を変える。
ユーザーの操作結果に応じて、別のUIを動的に生成する。
こういった“後から変わる”情報に対応する動きは、CSSではできません。
これはJavaScriptが最も得意とする領域であり、無理にCSSで再現しようとすると、見た目だけが整って裏側が破綻することになります。
アニメーションに“連動”がある場合
たとえば、
- スクロールに応じて複数の要素が同時に動く
- 一定タイミングで順番にアニメーションが走る
- ユーザーの操作によって複雑なトランジションが起きる
こういったケースでは、JSによるタイミング制御やイベント連携が不可欠です。
CSSアニメーションは単体では優秀ですが、「他の要素と連動する」となると、細かい制御が効かないという壁にぶつかります。
実務では「まずCSSでやってみて、足りなければJSで補う」というアプローチが最も現実的です。
大切なのは、“CSSでできること”と“CSSでは難しいこと”を両方知った上で判断することです。
次章では、こうした背景を踏まえて、Webディレクターが設計・相談時に意識しておくと役立つ視点を3つにまとめてご紹介します。
5. ディレクターに伝えたい3つのポイント
CSSだけでできることが増えた今、設計やフィードバックの段階で“JavaScriptありき”の思考から一歩引いて考える視点が、プロジェクトの効率を左右します。
ここでは、私が実務の中で「ここを意識してもらえると助かる」と感じているポイントを3つご紹介します。
1. 「動くUI=JavaScript」はもう古い
昔のように「何か動く=JSで書く」という時代ではありません。
ホバー、フェード、スライド、開閉といった視覚的な動きの多くは、今やCSSで実現可能です。
「動きがあるからJSでお願いします」と伝えるのではなく、
「これはCSSでもできるかもしれない」と考えること自体が、軽量で安全なUIを選ぶ第一歩になります。
2. 「CSSだけでできますか?」と聞いてみると、実は解決策がある
ディレクターから「このUI、JS使う必要ありますか?」と聞かれたとき、
私たち実装者は、「あ、CSSでいける方法あるな」と気づくことも多々あります。
最初からJS前提で依頼されると、余計な設計・開発コストがかかってしまうこともあるため、
相談の段階で“CSSだけでできる可能性を探る”という姿勢があると、プロジェクト全体の軽量化につながります。
3. 実装方法を任せてもらうと、より効率的な提案ができる
CSSかJSかをディレクターが決め打ちするよりも、「この見た目・動きにしたい」という意図だけを共有してもらう方が、実装者としては判断しやすく、最適な方法を提案しやすくなります。
- 「ホバーしたら印象が変わってほしい」
- 「開閉式で、最初は閉じていてほしい」
- 「1枚ずつスライドさせたい」
こうした要望は、CSSでもJSでも実現可能なことが多いため、
どちらの方が軽く・早く・安定するかを、現場で柔軟に判断することができます。
CSSだけでできるかどうかを最初に検討することで、
UIはよりシンプルに、Webはより速く、プロジェクトはよりスマートに進められる可能性が高まります。
6. まとめ:CSSだけで“軽くて使いやすい”UIが作れる時代
動きやインタラクションを伴うUIでも、CSSだけで実現できる表現が今では数多くあります。
それは単なる“技術の進化”ではなく、パフォーマンス、保守性、そして開発コストの最適化に直結する選択肢でもあります。
「見た目が動けばOK」ではなく、「どう動かすのが一番スマートか」という視点が、これからのUI設計には求められます。
その判断をディレクターと実装者が一緒に行えるようになれば、より軽く、より壊れにくく、より洗練されたUIを実現することができます。
次回のVol.6では、「静的デザインが実装の手間を増やす理由 ─ 状態・変化を想定した設計のすすめ」をテーマに、
“見た目通り”のデザインが実装現場ではなぜ再現しづらいのか、
そしてどんな視点でデザインを考えると、状態や変化に強いUIが実現できるのかを解説します。
次回もお楽しみに!