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「Webディレクター必携 ─ 現場経験から導いた“フロント制作 完全ガイド”」 Vol.4 軽くて崩れにくいCSS設計 ─ 複雑なデザインを支える実装の工夫とは?

1. はじめに:見た目が同じでも、コードの中身は全然違う

Webページを見て、「このデザイン、きれいにできてるな」と感じることは多いと思います。
ですが、その裏側にあるCSSの設計が軽くて保守しやすいものか、複雑で崩れやすいものかは、見た目だけでは判断できないのではないか、というのが実装者としての私の意見です。

たとえば、まったく同じように見えるカードレイアウトでも──
片方はテキスト量が変わっても崩れず、修正も簡単。
もう片方は、一文追加しただけで高さがズレ、余白もガタガタになる。

この差を生むのが、CSS設計の考え方です。

本記事では、実装者として日々意識している「軽くて崩れにくいCSS」の工夫について、
具体的な例を交えながら、技術的すぎず・ディレクター視点でわかる形で解説していきます。

次章ではまず、私たちが複雑なデザインに対して「どうやってCSSを軽く保っているか」についてお話しします。

2. 複雑なUIを“軽く保つ”ためにやっていること

「CSSって、結局見た目を整えるだけでしょ?」──そう思われがちですが、実装者としては“整った見た目を、崩れにくく・保守しやすく維持すること”が何より重要です。

特に、情報量の多いランディングページや、複雑なカード・リスト構成を持つUIでは、CSS設計の良し悪しがその後の運用に大きく影響します

ここでは、私が実装時に意識している「UIを軽く保つための基本的な設計方針」をご紹介します。

1. 共通パーツはコンポーネント化して再利用

似たようなボタンやカードが複数ある場合、それぞれに個別のスタイルを当てていくと、CSSが肥大化し、更新ミスが発生しやすくなります

そこで私は、たとえば以下のようなルールを設けています:

  • .btn-primary.card--feature など、役割ベースのクラスでパーツ化
  • 微妙に異なるパターンは「修正」ではなく「拡張」で対応
  • デザイン修正が入っても、1か所の変更で全体が反映されるように構成

これにより、“似ているけど微妙に違うUI地獄”を防ぎ、スタイルの一貫性も保てます。

2. 装飾用クラスと構造用クラスを分ける

たとえば、.container.section はレイアウト構造を定義するクラス、
.is-highlighted.has-shadow は装飾を定義するクラス、というように分離しておくと、スタイルの切り替えや制御がしやすくなります

この分離ができていないと、「ちょっとだけデザイン変えたいのに、全体に影響が出る」という事態が起きやすくなります。

3. 深すぎるネスト(入れ子)を避ける

.a .b .c .d のように、4階層以上のセレクタでスタイルを当てるような書き方は、後で保守する際に非常に厄介です。

  • 指定がピンポイントすぎて使い回せない
  • DOM構造が変わった瞬間にスタイルが壊れる
  • デバッグ時にどこが影響しているのか追いづらい

私は基本的に、「2階層まで+クラス指定」が明確に読める範囲を目安に設計しています。

4. !importantは極力使わない

!importantを使えば一時的にスタイルを強制できますが、一度使い始めると、それを“上書きするための上書き”が始まり、制御が効かなくなります。

実装者としては、!importantを多用する案件ほど「バグが起きやすく、壊しやすい」印象があります。

基本設計を丁寧にしておくことで、!importantに頼らなくても済む状態を作ることが、結果として軽量かつ柔軟なCSSに繋がります。

3. “崩れにくいCSS”にするための考慮点

CSSは「見た目を作るための言語」ではありますが、その見た目がどんな条件でも崩れないことが、実装者にとっては非常に重要です。

私が実務で特に意識しているのは、想定外の文字量・画像サイズ・画面幅でもレイアウトが破綻しない設計をすることです。

以下は、実際の現場で使っている具体的な手法とその目的をセットでご紹介します。

1. flexgridで余白・配置を制御する

目的:固定幅に頼らず、柔軟な配置ができるようにする

  • 固定幅で「ここに3つ並べる」と決め打ちしてしまうと、テキストが長くなったときにレイアウトが崩れます。
  • そのため、基本はflexgridを使って“余白で調整する構造”にします。

🛠 実務例:カード3列のレイアウトで、各カードのタイトルが異なる長さだったが、justify-content: space-betweenflex-growを併用することで整然と表示。

2. aspect-ratioの活用で画像・カードの比率を維持

目的:画像が潰れたり、縦長になったりするのを防ぐ

  • ブラウザによるレスポンシブ対応が進んだ今、aspect-ratioを指定することで画像やカードの縦横比を維持しやすくなりました。
  • 特に高さが揃わないことで、要素がガタつくUIでは非常に有効です。

🛠 実務例:サービス紹介のカード群で、すべて異なるサイズの画像を使用していたが、aspect-ratio: 4 / 3で見た目の統一感を実現。

3. min-width / max-width で可変幅に対応

目的:極端に小さい or 大きい画面でも崩れにくくする

  • レスポンシブ対応では、単にブレイクポイントを設定するだけでなく、要素ごとの最小・最大幅の制限も重要です。
  • これにより、ウルトラワイドモニターや小型スマホなどにも対応できます。

🛠 実務例:横並びのボタンで、片方のテキストが短すぎて極端に小さくなっていたのを、min-width: 120pxで調整し、視認性を確保。

このように、「崩れにくいCSS」を実現するには、1つひとつのUIに“ゆらぎ”があっても保てる設計を心がけることが重要です。

4. “コーディングのしやすさ”は“修正のしやすさ”でもある

実装の現場では、「とりあえず今、見た目が合っていればいい」と思われる場面も少なくありません。
しかし、その“とりあえず”の積み重ねが、後から大きな修正コストやレイアウト崩れを生む原因になります。

ベタ書きは一時的に早くても、長期的には破綻する

たとえば、1ページだけのLPで、同じようなボタンや見出しが5回登場するとします。
ベタ書きで都度スタイルを当てれば、短期的にはすぐ完成したように見えるかもしれません。

でも後から「このボタンの色を変えてほしい」と言われたときに──

  • CSSを5か所書き直さなければいけない
  • 指定漏れが発生して、一部だけ色が変わらない
  • 最悪の場合、他の箇所に影響が出て崩れる

ということが、本当によくあります。

コードを“整理された状態”にしておくことが、未来の自分や他の実装者を助ける

私が実装する際は、次の人が見てもすぐ理解できるように、以下のような配慮をしています:

  • 同じUIは共通クラスで統一
  • ネストや命名ルールに一貫性を持たせる
  • 意図的な調整(例:一時的なマージン)はコメントで補足

こうしておくと、「ちょっと文字を変えたい」「ボタンの順番を入れ替えたい」だけでレイアウトが崩れるリスクを限りなく減らせます。

実際にあった修正トラブルの例

あるWebサービスで、「ボタンの文言を1文字だけ変更したい」という軽微な修正依頼がありました。
しかし、変更後にそのボタンだけ2行になり、周囲のボタンと高さがズレて、レイアウト全体がガタついてしまいました。

調査の結果、ボタン幅がテキスト量に依存しており、かつmin-widthflexによる調整がされていなかったためでした。
最終的にはCSSの書き直しと再調整が必要になり、想定の5倍以上の工数がかかってしまったのです。

このように、“ちょっとした修正”が地雷になるかどうかは、実装時のCSS設計次第です。

5. ディレクターに伝えたい3つのポイント

CSS設計の良し悪しは、コードの中に潜んでいて目には見えにくいものです。
ですが、ディレクターが少しだけその背景を意識してくださるだけで、実装の精度もスピードも、驚くほど変わってきます。

ここでは、私が実務の中で「ここを共有してもらえると本当に助かる」と感じている視点を3つご紹介します。

1. “ただ組めばいい”実装と、“考え抜いた”実装では、根本から違う

同じような見た目でも、CSSの構造には大きな差があります。

  • ベタ書きでその場しのぎの実装 → 修正時に崩れる・拡張できない
  • 再利用・柔軟性・保守性を意識した実装 → 長期的に安定し、追加もスムーズ

デザインがしっかりしていても、実装が雑だと品質は支えられません。
「どう見せるか」と同じくらい、「どう組むか」も意識していただけると助かります。

2. 繰り返しが多いUIは、設計段階で「共通化」を見越してほしい

ボタンやカード、セクション見出しなど、同じ見た目のパーツが複数ある場合、都度コピペして個別対応するのではなく、共通化を前提に設計するとCSSがシンプルになります。

デザイン時やワイヤーの段階で「このUIは共通です」と明記いただけると、クラス設計が明確になり、保守性も高くなります。

3.「このパーツは流用予定」と意図を共有してもらえると設計が最適化しやすい

実装者として一番ありがたいのは、ディレクターから**“今後どう使う予定か”の情報**を事前にもらえることです。

  • 「このバナーは今後別ページにも使う」
  • 「このボタンはCMSで動的に増減するかも」
  • 「このレイアウトは多言語対応予定」

こうした背景を知っていると、最初の実装から“崩れない・柔軟に対応できるCSS”に仕上げることが可能になります。

ディレクターと実装者が目的を共有できると、修正や対応のたびに立ち返ることができる強いCSS設計が生まれます。

6. まとめ:目に見えないけど、CSS設計がWeb品質を左右する

CSS設計は、見た目には現れません。ですがその良し悪しは、保守性・安定性・拡張性といった“Webの品質”そのものに直結しています。

実装者が時間をかけて設計する理由は、「崩れにくく、壊れにくく、長く使えるコードを残す」ためです。
そしてそれは、ディレクターが“使いまわせる設計”や“意図の共有”を意識してくれることで、さらに強く、無駄のないCSS設計に繋がります。

軽さと柔軟さのあるCSSは、見た目以上にプロジェクトの安定性を支えます。
次回のVol.5では、「“簡単に直せるでしょ?”が簡単じゃない理由」をテーマに、改修時に起こりがちな落とし穴とその背景について解説します。

次回も、お楽しみに!